第5章 無理なく効率的に資金を捻出する

給与天引きを賢く活用する【給与明細でわかること】

総支給額から控除されているもの

給与明細書でわかること

 会社員など、給与を受け取る人は、その内容を示す給与明細を会社から受け取ります。

 通帳に振り込まれている金額は、いくらか知っていても総支給額がいくらなのか、何にいくら引かれているのかは意外と知らない人も多いのではないでしょうか。

 ここでは引かれている項目の内容や、引かれている金額が多い場合に返してもらえる方法などを見ていきましょう。

 給与を実際に受け取る際には、あらかじめ差し引かれる金額があり、何がどれだけ引かれているのか、その内訳が給与明細に記載されています。

 給与明細にはライフプランを考えるための様々な情報が入っているので、改めてチェックしていきましょう。

 給与明細に書かれている項目です。会社によって明細の様式は異なりますが、大きく3つの項目が記載されています。

  1. 勤怠項目
     働いた日数や残業時間など、給与計算の元となる勤務状況が書かれているのが勤怠項目です。実際の出勤日数や残業時間、有給休暇の取得日数などが間違いないか確認しましょう。
  2. 支給項目
     支給項目は基本給と諸手当が記載されています。
     基本給は給与の基本部分、ボーナスの査定や退職金の計算などを行う際のペースにもなります。
     諸手当は役職手当や資格手当、家族手当や住宅手当が記載されています。家族構成が変わったり引っ越しをした時などは金額の変更が間違いないか確認しましょう。
  3. 控除項目
     給与から差し引かれる金額が書かれています。主に差し引かれているのは、所得税や住民税といった税金と健康保険や厚生年金などの社会保険料です。
     所得税ですが、総支給額から、社会保険料の合計額を控除した金額を基礎に算定されます。毎月引かれている所得税は、過不足が年末調整され、払い過ぎていた分は還付されます。
     住民税は、健康保険料等と同様に給料から徴収されます。ただし、ボーナスからの徴収はありません。ちなみに住民税は、前年の所得をもとに計算されるので、入社一年目の時はかかりません。反対に退職した翌年は給与は受け取れなくても住民税を支払うことになります。

確定申告で税金が還付される

 所得税は過不足が年末調整され、払い過ぎていた分は還付されると説明しましたが、確定申告をすることでも税金が戻ってくることがあります。

 代表的なものは、医療費控除と寄付金控除(ふるさと納税)です。

 医療費控除ですが、例えば、課税所得金額が500万円の人が、1年間に支払った医療費の合計が100万円で、生命保険からの入院給付金が30万円あった場合の医療費控除額は60万円となります。 

 還付金額は医療費控除額60万円×所得税率20%=12万円です。

 寄付金控除ですが、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です(一定の上限はあります。)。

 例えば、年収700万円の給与所得者の方で扶養家族が配偶者のみの場合、3万円のふるさと納税を行うと、2000円を超える部分である2万8000円が所得税と住民税から控除されます。

給与天引き感覚で先取り貯金を活用する

先取り貯金

 毎月それなりの金額を支払うことになる社会保険料ですが、これはすべての国民に最低限の保障を備えるために、国が法律で定めた公的な保障の費用です。

 そのため加入が義務化されていて、給与所得者の場合は保険料が給与から天引きされます。少し前に年金未納問題が話題になりましたが、給与所得者の場合は、保険料が給与から天引きされるので、未納になる事はありません

 社会保険について改めて説明すると、健康保険や介護保険といった病院にかかった場合の治療費や、入院費、介護費用の自己負担を軽減してくれます。

 厚生年金からは老後に受け取る年金のほか、障害を負ったり、配偶者がなくなった場合などにも年金が支払われる制度があります。

 これらの社会保険料や税金を総支給額から差し引いた額が差し引き支給額、つまり手取り額です。

 ただこの手取り額を全部使ってしまうのではお金はたまりません。将来を考えると小額でも着実に貯めたいものです。 

 でも余ったお金を後で貯蓄しようとすると、つい使いすぎて貯蓄できないこともあります。

 そこで有効な貯蓄方法が給与が振り込まれたら、まずは目標貯蓄額を差し引く先取り貯金です。

 先取り貯金を着実に続けるには無理のない金額で自動的に貯金される仕組みを作るのがポイントです。

 お勧め先に財形貯蓄制度など、積立金の制度が設けられている場合、その制度を利用すれば、税金や社会保険料と同じく、給与天引きができるので、着実に先取り貯蓄が可能になります。

会社員と自営業・パートの違い【働き方が変わると税金が変わる】

会社員と自営業・パートの違い

働き方が変わると税金が変わる

 現在は、さまざまな働き方があり、長く勤めた会社を退職して、新しい働き方をする人も少なくありません。

 正社員として働くか、自営業やフリーランスとして働くか、働き方が変わることによって収入や社会保険の種別等が変化します。

 働き方の変化に応じて、将来を見据えた対策が必要です。

 会社員の場合は、基本的に年金は厚生年金、健康保険は組合健保や協会けんぽです。また、雇用保険にも加入します。 

 これらの社会保険料と所得税・住民税が毎月の給料から源泉徴収つまり天引きされる形になっています。

 会社員をやめて、自営業やパート等で働く場合、この社会保険や税金が少しずつ変わってきます。

 例えば、会社を辞めてパートになった場合の例を見てみましょう。

 まず年金については、夫の扶養に入らず、厚生年金から国民年金に変わったとします。

 当然、厚生年金がなくなり国民年金だけになるので、将来受け取れる年金額が少なくなります。

 会社員だった頃はあまり実感がないのですが、実は給料から天引きされていた厚生年金保険料には国民年金の保険料も含まれています。

 したがって、会社員の頃は、国民年金と厚生年金の両方を納めていたということになります。

 厚生年金の保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じ、社員と会社が半分ずつ払う仕組みになっています。

 標準報酬月額が20万円の場合、保険料率が18.3%ならば保険料は3万6600円で、半分の1万8300円を納付することになります。

 給料から天引きされるので、あまり支払っているという実感はなかったかもしれません。

 国民年金の場合は、手元にあるお金で支払うようなイメージになるので、より負担感が増します。

 保険料は厚生年金の場合、給与に応じて変わりますが、国民年金の保険料は収入の金額を問わず毎月定額で1万6520円です(令和5年度)

 健康保険ですが、会社員時代の組合健保、協会けんぽから変更になります。

 自治体ごとの国民健康保険に加入するか、夫の健康保険に夫の扶養家族として加入するなどの選択肢が出てきます。

 国民健康保険に加入する場合は、家族構成や地域によって異なりますが、いずれにしても会社員時代の保険料とは違う計算方法になります。

夫の扶養に入った場合

 これらの社会保険に関しては、妻が夫の社会保険上の扶養に入ると、保険料は夫が加入している厚生年金や共済組合が一括して負担するため、妻が個別に保険料を納付する必要はなくなります。

 所得税や住民税については、妻の給与年収が103万円以下である場合などは扶養に入ることができ、所得税や住民税の負担が軽減されます。

 また、夫は配偶者控除や配偶者特別控除の対象になり、夫の所得税と住民税が控除されます。

 控除額は、パート年収150万円以下を満額に徐々に減り、年収201万円まで控除額があります。

 ただ、夫の合計所得金額が1000万円を超える場合は控除の対象外です。

年収の壁と扶養範囲内で働く場合

被用者保険適用となることによる給付・負担の主な変化

 まるまるの壁といったパートで働く方の税金や社会保険料に関しては、年々見直しが進められています。

①年収103万円の壁

 年収103万円の壁は、所得税の課税対象に関する年収の目安です。

パートで働く方の年収が103万円以下の場合、働いている方本人に所得税がかからない

パートで働く方の年収が103万円以下の場合、配偶者の方は配偶者控除を受けられる

 パートやアルバイトなど給与収入の方の場合、年収が103万円以下では所得税は課されませんが、年収103万円を超えると、超えた分に対して所得税がかかります。

 また、住民税は地域によって違いますが、およそ100万円前後からかかり、年収103万円の場合は、年数千円程度かかります。

 夫の方は、パート収入のある配偶者の年収が103万円以下(給与収入の場合)なら配偶者控除が受けられる場合がありますが、103万円を超えると配偶者控除の対象から外れ、配偶者特別控除の対象となります。

②年収106万円と130万円の壁

 年収106万円と130万円の壁は、社会保険に関する年収の目安です。

 106万円の壁は、2022年10月以降、会社の人数上限が引き下げられて101人以上の会社から対象になり、年収が約106万円以上あると勤務先の社会保険への加入義務が発生します。

 保険料は年収106万円で年間15万円前後です。

年収106万円を超えた場合は、短時間労働者への社会保険適用拡大の対象となる事業所で働いている場合、社会保険へ加入する必要がある

年収130万円を超えた場合は、すべての方が配偶者の社会保険の扶養から外れ、自ら社会保険に加入する必要がある

 なお、「年収106万円」はあくまで目安である点に注意しましょう。

 短時間労働者への社会保険適用拡大の対象は、以下のすべてを満たした方が対象です。

  • 所定労働時間が週20時間以上である
  • 1カ月の賃金が8.8万円(年収約106万円)以上である
  • 勤務期間が2ヵ月を超える見込みがある
  • 勤務先の従業員が101人以上(厚生年金の被保険者数)の企業である
  • 学生は対象外(夜間や定時制など、加入対象となる学生もある)

③年収150万円の壁

 年収150万円の壁は、配偶者特別控除を満額受けられる上限の金額です。

 例えば、パート収入のある配偶者の年収が103万円から150万円までの場合は、控除を受ける納税者本人は配偶者特別控除が満額適用されます。

 配偶者のパート収入が年収150万円を超えると控除額は段階的に引き下げられ、年収201.6万円以上で0円となる仕組みです。

 社会保険の扶養から外れると保険料の支払いが必要とはなりますが、デメリットだけではありません。

 健康保険や厚生年金に自ら加入することで、傷病手当金や出産手当金を受給できたり、将来の年金に厚生年金分が上乗せされるなどのメリットもあります。

 社会保険の負担を気にして働き方をセーブするのか、貯めどきを逃さないように共働きで所得を増やすのかは、それぞれのライフプランによります。

 何歳まで、どのような形で働くのか、今後の働き方はしっかり考えておく必要があります。

年収

負担内容

103万円超

税金の配偶者控除が受けられなくなる。

106万円超

従業員101人以上の会社の場合、社会保険の扶養に入れなくなる。

130万円超

従業員100人以下の会社の場合、社会保険の扶養に入れなくなる。

150万円超

税金の配偶者特別控除が受けられなくなる。

ライフプラン表でシミュレーション【長く働くと収支はどうなる】

ライフプラン表で将来をシミュレーションしてみる

長く働いた場合

 ライフプラン表を作成するメリットは、収入や支出の変化によって将来の家計に問題がないかどうかシミュレーションできるところです。

 ここでは、リタイア後の家計がどのように変化するかシミュレーションしてみましょう。

 例えば、山田さんご夫婦の場合ですが、

夫の太郎さんは今年で57歳。会社員で手取りの年収は480万円、退職金は1800万円がもらえます。

 太郎さんの会社は60歳が定年退職ですが、希望すればその後も再雇用で65歳まで働くことができます。

 しかし、太郎さんの希望は60歳で退職し、退職後は何もせず65歳から年間200万円の年金と貯蓄を取り崩しながら生活したいということです。

 花子さんは太郎さんよりも1歳年下で、結婚を機に花子さんは会社を退職して、専業主婦となりました。

 山田家の生活費は年間410万円、リタイア後の生活費は30%削減し、290万円になる見込みです。

 山田家のセカンドライフは、年金と、もともと蓄えていた貯蓄の780万円と退職金を取り崩しながら生活しようと考えています。

 この状況での山田家のライフプラン表を見てみると、退職後は年金を受け取るまで収入がないので当然収支はマイナスになります。(図1)

 その後も貯蓄を取り崩しながら生活しているので、あっという間に貯蓄残高は1000万円を割ってしまいます。

 そこで、花子さんは太郎さんが年金を受け取るまではパートにでも出ようかしらといって、毎月5万円のパート収入を得ることにしました。

山田家の現状のキャッシュフロー
図1:60歳で退職以降働かない場合のライフプラン。貯蓄残高(緑色の面グラフ)の減少が激しい

パートや再雇用で長く働いた場合

 太郎さんの退職後から5年間、年60万円のパート収入をライフプラン表に加えると、花子さんが65歳の時に1000万円を割っていた貯蓄残高は1660万円に増える計算になります。(図2)

 60歳以降はマイナス収支が続きますが、支出を減らさなくてもなんとか家計をやりくりできる状態になりました。

 さらに、太郎さんが退職はしたものの再就職をして働き続け、年240万円の収入を加えた場合、同じ時期の貯蓄残高は2860万円になり、長く働くことで、ゆとりのある生活ができそうです。(図3)

 再就職後の収入は、現役の頃と比べ半分になりましたが、それでも長く働き続けたほうが家計にとってはプラスになります。

 しかも、60歳以降会社員として働き続ける場合は、厚生年金に加入し続けることにより年金額の増加も期待できます。

 ただ、現在は、退職後の元気なうちに、やりたいことに挑戦したり、地方に移住して自由に暮らすといった様々なライフスタイルがあります。

 どんな人生を送るにしても、今のうちから将来の収入や支出をイメージしておきましょう。

妻が働いた場合のキャッシュフロー表
図2:花子さんが働いた場合のライフプラン。貯蓄残高の減少は緩やかになったものの、ゆとりのある生活とは言い難い 
60歳以降も夫が働いた場合のキャッシュフロー表
図3:60歳以降も働き続けた場合のライフプラン。貯蓄残高の減少はあまり見られず、ゆとりある生活が送れそう
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